
- コミュニケーションの未来にあるのがVR
- ビデオ会議では難しいVR会議ならではのよさ
- VRがアップデートする対面コミュニケーション
「VR(バーチャルリアリティー)元年」と言われた2016年より3年。ゴーグルをかぶると視界いっぱいが別世界に覆われて、手に持ったコントローラーで目の前のものを直感的に操作できる──。
VRはそんな目新しい感覚で注目を集めて、当初はゲームやエンターテイメントの分野で脚光を浴びていましたが、フタを開けてみると日本で特に定着したのはビジネスでした。
実はVRとビジネスの関係は、ここ数年で始まったものではありません。例えば、車のモックアップを実際につくるとコストがかかるので、CGで表示させてVRゴーグルをかぶって見え方をチェックするといった具合に、以前から製造業などが活用してきました。
考えてみれば3D CGは立体物なのに、われわれは平面のディスプレーしか使えなかったので、2Dの状態で見るしかなかったわけです。もし立体物のまま空間に3D CGを出せるディスプレーがあるなら、その方が直感的に近づいたり回り込んだりして見られるので便利なはず。ということで医療、建築、不動産、観光、教育など、さまざまな職種でVRやARの使い方が開発されています。
2016年の「元年」で何が変わったかといえば、今まで数百万円、数千万円とかかっていたハードウェアのコストが、数万円レベルにまで落ちたという点です。今までコストの高さで導入を諦めていた分野でも、これからはVRでもっと効率的にビジネスを進められる。そんな仕事のやり方を大きく変えられる潮目が今、目の前にやってきています。
ビジネスコミュニケーションもVRによって大きく変わろうとしているジャンルのひとつです。
Synamonの「NEUTRANS」は、簡単にいえばバーチャル会議システムで、複数人がVRゴーグルをかぶってインターネット越しに同じバーチャル空間に入り、資料やウェブページなどを一緒に見ながら会話できるというビジュアルコラボレーションツールになっています。
バーチャル空間での会議というとずいぶん先の話のように聞こえますが、実はいくつかあるオフィス間での会議などに活用している先進的な会社も出てきています。そんな中から今回はKDDIさんにお邪魔して、NEUTRANSで解決できた課題や使い勝手などをお聞きしてきました。
コミュニケーションの未来にあるのがVR
ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部 次世代ビジネス推進部 グループリーダー・舘林俊平氏。
今までKDDIさんはVRでどういう取り組みをしてきましたか?
舘林氏:元々、VRをやり始めた出来事でいうと、2016年3月、アメリカのテキサス州オースティンで開催していたクリエイティブビジネスの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)にVRコミュニケーションデモを持って行ったのが最初になります(出展概要ページ)。ちょうど、スマホ向けのVRデバイスを手がけるハコスコさんに出資したのと同時期ですね。
そこに至るまでには、かなり検討を重ねました。僕らは電話やメール、テキストチャットといった、人と人とのコミュニケーションを支えるサービスをつくってきましたが、この先には情報だけではなく体験を共有する未来が来るだろうと。その時間や空間の共有を実現できるツールとしてVRに着目して、一緒にビジネス化できる人とチームを探していたのが2016年3月当時です。
「元年」から取り組まれてきたわけですね。
舘林氏:はい。ただ2016年度は、デバイス自体はまだ一般の人が買うまでにこなれていないし、どこにいったらVRで遊べるのかという体験できる環境も整っていなかったこともあって、当時はBtoBでの提案を主にやっていました。JR西日本さんと取り組んだ、地震が原因で起こった津波をイメージトレーニングできる「VR訓練」などが代表作です。その後、SXSWのコミュニケーションデモを進化させた「Linked-door Loves Space Channel 5」を東京ゲームショウで展示するなど、国内外のイベントへの出展を重ねています。
2017年度末よりもう少し一般ユーザーにVRやARを普及させることを支援したいと思い、全国のネットカフェでVRが体験できる「VR THEATER」というプロジェクトにも参加して、コンテンツを楽しめる環境を整備しています。現在は360店舗ほどに導入されています。
多いですね!
舘林氏:ARでもハウステンボスさんのARシューティングアトラクション「ジュラシックアイランド」を手がけました。実際の無人島を探索し、銃を構えてそこに付いているARスコープをのぞくと画面に恐竜が出現するので、襲いかかってくる肉食恐竜だけ撃って撃退するというもので、かなり好評で社内外で大きく話題になりました。
そうした店舗やテーマパークに「ARやVRをやりに行く」ではなく、たまたま来たところに新しいテクノロジーを使った面白いものがあったという状況を作りだしていきたいです。
SynamonのNEUTRANSを導入したきっかけは?
舘林氏:先ほども触れたように、2016年に取り組みを始めたときから「VRは未来のコミュニケーションのツールになる」と宣言していました。
VRはゲームのイメージも強いですが、そうしたジャンルはほかに面白いものを作れる方が大勢いるので、われわれはコミュニケーションに価値を置いたいろいろな取り組みをやっていきたい。その点でNEUTRANSのようなコミュニケーションが鍵となる会議システムに大きな価値を感じています。
ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進室部 次世代ビジネス推進グループ 課長補佐・柏木真由子さん。
柏木さん:弊社でも会議について課題を感じていた背景もあります。KDDIは飯田橋が本社ですが、渋谷や虎ノ門にも拠点があって、さらにグループ会社も存在しています。その拠点間での会議を行うとなると、まず移動に時間が取られるうえ、会議室を探すのも一苦労だったりします。
それをVRで解決していくというのはすごく理にかなっているということで、「KDDI ∞ Labo」(KDDIムゲンラボ)にて5G時代の事業共創を目的とした次世代プログラムの5チーム中、1チームにSynamonさんを選んで協業しております。まずはわれわれがたくさん使って、それをフィードバックしてより良いサービスにするのが必要ということで、社内での使用をスタートしました。
先ほど言われていた会議というのは、週にどれくらいの頻度であるのでしょうか?
川本氏:チームや業務にもよりますが、舘林のように多い人だと1日5~6件は平気で入っていたりします。
柏木さん:この前、渋谷オフィスの社員にインタビューしたときは、毎日移動しているという人もいて、少なくとも1週間のうち3〜4日は都内の拠点で会議をしているという実態が浮き上がってきました。
ビデオ会議では難しいVR会議ならではのよさ
ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部 次世代ビジネス推進グループ 主任・川本大功氏。
実際にNEUTRANSを導入してどう感じられましたか? 例えば、操作面とかで迷ったりされましたか?
柏木さん:操作自体がすごく簡単で、かつユーザーインターフェースもいいので、違和感なく始められたかなっていうのが正直なところです。
川本氏:自分は実は∞ Laboでプレゼンされた際には「VR会議」についてそこまでピンとこなかったんです。正直、Skypeやテレビ電話との違いがわからなかったのですが、NEUTRANSを使ってみるとすごく直感的に会議ができてしまうということに驚きました。
特に多人数で打ち合わせにぴったりです。渋谷と虎ノ門のオフィス間で3〜4人でディスカッションを試してみようと実験した際、柏木ともう1人のメンバーはほぼ初体験だったにも関わらず、すごく自然に会話できたんです。特に話しているうちに普通に熱中してて、これがVR会議だということを忘れてしまうぐらいだったのが印象的でした。
柏木さん:Skype会議では会話の間が測りにくく、「ちょっとよろしいですか」みたいな感じで強引なカットインをすることもあると思います。一方でVR会議では、アバターが向いている方向や身振り手振りなどが表現できるので、例えば私が川本のほうを見て話したら自分の方を向いて返してくれるように、自然にコミュニケーションできます。
川本氏:その時、僕はファシリテーター(会議の仕切り役)をやってましたが、一人一人の表情はわからないけれども、うなずきや身体の角度、動きで次はこの人に話を振ろうとわかるので、とてもやりやすかったです。Skypeなどでは難しい遠隔ワークショップも、NEUTRANSならできると思いました。
あとはVR酔いしにくい点。VRは長く装着していると酔いが感じやすくなりますが、NEUTRANSはチームのVR酔いしやすいメンバーでもまったく酔わずに長時間会議できました。あとは手で何かを操作したいならOculus RiftのようなPC向けVRゴーグルを使い、単純に話すだけならOculus Goのような一体型を選ぶといったように、用途に応じて使い分けられるのもいいですね。
NEUTRANSはコミュニケーション以外のビジュアル機能も豊富ですが、その辺りで便利に感じた使い方はありましたか?
川本氏:資料の投影はとてもいいですね。単純といえば単純ですが、バーチャル空間で大画面で共有することでプレゼンもしやすかったですし、映像を一緒に見る体験もすごく新しかった。個人的に1番好きなのは、空間全体に360度写真を表示する機能で、みんなで入り込んだというあの感覚がすごくよかった。イベントのロケハンとかは、正直これでいいんじゃないかって。
ロケハンの話がでましたが、会議の中でもこれには便利そうという用途はほかにありますか?
柏木さん:色々あります。360度写真なら不動産で使えると思いますし、医療では人体模型を3Dモデルとして取り込んでディスカッションに使いたいという話もでていました。人体模型は実際に買うと1000万円するものもあるそうです。
高い! 川本さんは?
川本氏:僕は元々、大学の教員をやっていましたが、大学院生とかのゼミはVRでいけるなと感じました。やっぱりみんなわざわざ集まるのは結構大変だったりします。
あと実際、クライアント様とも話して出てきたのがグループインタビューですね。いわゆる調査会社さんとかがやってるみたいなフォーカスグループインタビューで、もちろん対面で表情を見ながらやるのがベストなんでしょうけど、そうなると場所が大都市圏に限定されがちなんですよね。
それは盲点でした。
川本氏:でもNEUTRANSを使えば、地方でも全然違う場所の人を一度に集めてインタビューできてしまう。自宅から参加できてしまうので、時間も割と自由なのが気軽です。
柏木さん:研修も相性がいいと思います。今、ちょうど人事部と話をしていますが、弊社は何かを教えるときに全国の拠点から人を集めてくることも多く何かとコストがかかるんです。そのコストを圧縮できるうえ、みんなでワイワイ話しながら研修できるんじゃないかと話しています。
逆にVRで表情が見えないから、サボっていたりしませんかね(笑)
川本氏:いや、実はそんなことなくて、僕は逆にVR会議のほうが集中できると思っています。というのも、内職ができないんです。
確かに。
柏木さん:普段の会議では、PCに向かっている人が何をやっているかわからないですが、VRならPCを持ち込めないので密度の高い会話が集中してできると思います。
VRがアップデートする対面コミュニケーション
NEUTRANSのようなVR会議が普及すると、未来の仕事はどう変わっていくと思いますか?
川本氏:バーチャル空間で資料を編集したり、文書を作成できるといいですよね。もしくは音声入力でそのままログを残しておいてくれるとか。僕の野望で言えば、出社しなくてよくなるんじゃないかってところです。
それは首都圏に住む人にとっては超重要ですよ。だってみんな毎日、満員電車に押しつぶされて……。
川本氏:そうなんですよ。何で朝からそんなことしなきゃいけないのかっていう。極論、オフィスを構えなくてもある程度自宅などで仕事ができるようになってほしいと願っています。PC上で今できることは、NEUTRANSの中でもほぼできると思います。なのでコミュニケーションだけでなく、バーチャルオフィスを構築できるものとして進化していってほしい。
柏木さん:ほかのアプリとの連携もほしいですよね。例えばユーザーのスケジュールと連携して、会議室まで全部合わせて、そこでミートアップまでやってしまうとか。中々、対面で会えないような人と予約をとって、VRの中で初めて挨拶して名刺交換……ということも可能になるんじゃないかと。
でも「最初は実際に会いましょう」みたいな意見も根強そうです。
川本氏:実は舘林も含めて1回やってみたんですけど、めちゃくちゃ話しやすいです。
舘林氏:沖縄の方なんですが、僕はまだリアルであったことありません(笑)。リアルですと、最初は顔色伺いながら話すじゃないですか。「いやぁすいません、ご足労いただいてありがとうございます」「すごく綺麗なビルですよね」みたいな前置きがなくていいし、外観が怖いとかもわからないので、抵抗感なく話せるんです。
柏木さん:相手がどんな年齢の方かというのが外見でわからないのでしゃべりやすかったりします。
舘林氏:お互いに「圧」がないんですよね。
川本氏:だからアイスブレイクに今まで10分以上かかっていたのが、1〜2分で終わるぐらいにすごく短く済みました。アバターなので、「この人ってどんな人なんだっけ」を1回無視できるんです。
なるほど。本題に没頭できるという。
川本氏:そうなんですよ。いきなり本題に入れるくらいの感じです。
舘林氏:メールとSlackの違いのようなものです。
確かに。ツールによってコミュニケーションの質が変わるというのは今までの歴史で繰り返されてきたことなので、VRによって対面コミュニケーションも大きくアップデートされそうです。
舘林氏:一度VRで会っておくと、次にリアルで会ったときに話が早いんです。
川本氏:「最初はVRでいいですか?」って言って、お互いの会社の情報交換だけ済ませて、具体的な話を対面で……の方が早いんじゃないかなっていう気がします。
VRが普及すれば、本当に会うのが気軽になると思います。社内の人とちょっとディスカッションするために席に歩いて行く感覚で、スケジュール調整や移動コストを省略して社外の人と「まずちょっと話してみませんか」と会えてしまう。実際、相手先に行ってもプロジェクターとつなぐアダプターがないとか、些細なことで時間が無駄になりますしね。
あるある(笑)。
川本氏:そんなどうでもいいトラブルが一切ないのが本当にいいです。なんならプレゼンテーションの動画を用意しておいて、一緒に見ましょうというだけでもいい。今はまだVRデバイス自体があまり普及していませんが、そのハードルがなくなってNEUTRANSを使うのが当たり前になっていけば、最高の未来が来ると思います。
柏木さん:そのハードルをなくすための努力をわれわれもしなきゃいけないですね。
舘林氏:ぜひ一緒にやっていければと思います。今後も体験を共有する未来のコミュニケーションを実現していきますので、KDDIのVR事業にもご期待ください。