CASE STUDY

防衛医科大学校

既存の医学講習会をバーチャル空間で完全再現
VR技術がもたらす医学教育、トレーニングの進化

  • 低コストで没入感のあるシミュレーションが何度でも体験可能なVR技術
  • VRならではの機能を活用し、「NEUTRANS」上で既存の講習会を再現
  • VRの強みを存分に活かしたトレーニングの実現に向けて

「医療や医学が必要となる現場」といえば、病院や学校の保健室などを想像される方が多いかもしれません。一方で、医療や医学は我々の日常生活だけでなく、災害現場や戦場といった場面でも重要な役割を果たします。

今回お話を伺ったのは防衛医科大学校(以下、防衛医大)。「医官(医師である幹部自衛官)となるべき者を育成するとともに、卒業した医官に対して、自衛隊の任務遂行に必要な医学に関する高度な知識・研究能力を修得させるための教育・訓練を行うこと」を目的とした大学校です。ここで「防衛医学」と呼ばれる、前述した災害現場や戦場のような特殊な状況での医療について教鞭を執っている清住 哲郎教授に、「NEUTRANS」の活用内容と医学教育×VR技術の可能性についてお話を伺いました。

低コストで没入感のあるシミュレーションが何度でも体験可能なVR技術

今日は実際に活用しているバーチャル空間でお話を伺えるとのことで、ありがとうございます!お話を伺えるのが楽しみです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

清住氏:色々と浮かんでごちゃごちゃとしていますが(笑)。よろしくお願いします。


大画面に資料、人体模型を中心に配置された道具、それを映すカメラなどがある講習空間

まず初めに、清住教授の経歴を簡単にお伺いしてもよろしいでしょうか。

清住氏:私は、ここ防衛医大の卒業生で、救急医学を軸足に海上自衛隊の医官として全国の部隊、自衛隊病院、司令部等で30年ほど勤務してきました。2017年から本校の防衛医学講座を担当しています。

「防衛医学」というのはあまり馴染みのない言葉なのですが、どういった内容なのでしょう…。

清住氏:一言でいうと、「自衛隊の医療者として必要なこと」でしょうか。自衛隊では、普段の生活では滅多に起こらない傷病に対応する必要もあります。銃で撃たれたり、爆発に巻き込まれたりといった怪我への対応、CBRNE(シーバーン)と呼ばれる化学剤や生物剤、放射線障害などへの対応ですね。その他、特殊な環境として潜水中のような高気圧環境に関わる医療、航空機の中のような低気圧環境に関わる医療、地震などの災害における医療など…。

かなりの範囲ですね!これらを教える中で、VR技術に注目した背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

清住氏:私達は学生だけでなく、陸海空自衛隊に所属する多くの医療者に防衛医学的な教育を行う必要がありますが、先ほど申し上げたような場面を体験してもらうのはとても難しいんです。実地はリスキーだしそもそも機会が少なく、だからといって再現するには大規模な施設が必要です。その施設があっても、シミュレーションには大きな手間がかかってしまいますし…。

確かに、クオリティ高く再現するのも難しいですし、実現できてももう一度実践するのに時間もお金もかかってしまいますね。

清住氏:それらの課題を解決するために注目したのが、VR技術でした。VR技術はこういった場面を高い没入感をもって再現できる上に、デジタルデータとして繰り返し学習が可能です。現実空間のシミュレーションに比べて低コストに、更に好きなタイミングで何度でも学習できるというのはかなり大きなメリットです。有事対応のトレーニングとVR技術は非常に相性が良いと感じています。

また、自衛隊は全国に展開していますが、訓練や講習会では全国から一か所に人が集まる必要があります。VR技術があれば遠隔地同士でもOKですし、移動のコストも削減できると感じました。

VR技術が、現状の足りない部分を埋める技術としてまさにぴったりハマりそうですね。

VRならではの機能を活用し、「NEUTRANS」上で既存の講習会を再現

実際に清住教授が「NEUTRANS」を活用してどのような取り組みを行ったのかについてお話を伺いたいです。

清住氏:災害現場におけるVR技術活用としては、災害医療対応支援および医療教育の実証実験という取り組みを実施しました。実証実験ではありますが、非常に意義のある取り組みだと感じていますし、引き続き検証を続けていきたいですね。

また直近では、コロナ禍(取材は2021年4月)で人が集まっての実習ができなくなったことをきっかけに、VRを使った蘇生訓練の指導者養成講習会を行いました。まさにこの空間で行った取り組みです。

前者は確かにぴったりの取り組みでした!今回は後者についてお話を伺っていきたいのですが、蘇生訓練の指導者養成講習会というのはどういった講習会なのでしょうか。

清住氏:蘇生訓練を指導するには専門の資格が必要なんですが、その資格取得に向けた講習会です。要するに、「蘇生方法の上手な教え方を学ぶ」講習会ですね。今回は受講生4名、講師2名で実施しました。

通常であれば実寸大の人形や器具を集めて対面で行うものなのですが、これであればVRでもできるのではないか?と思ったんです。実際の蘇生を行うためのスキルや手技を教えるには、力加減などの物理的なフィードバックも重要なので今のVR技術では難しいものがあるのですが、「教え方のコツ」を伝えるのであれば問題ないという判断でした。

「教え方を学ぶ」講習会!空間には色々な3Dモデルや資料が浮かんでいますが、これらの準備はなかなか大変そうです。

清住氏:いえ、そんなに大変とは感じなかったですよ。元々リアルで実施していた時に使っていた資料をこの空間でも使えましたし、3Dモデルはフリー素材を活用したり、無料で見つからないものに関してはOculusストアにある無料のモデリングソフトやWindowsに標準搭載されていたペイント3Dで作成できました。


自身がフリーソフトを活用して作成したモデルを手に持つ様子

自分でモデルを手作りされていたとは驚きです。元々モデリングの経験があったのでしょうか?

清住氏:全く、完全に素人です(笑)。はじめは読み込んでもモデルに色がついていなかったりとトラブルが発生しましたが、モデリング用フリーソフトを使ったり、Synamonさんにサポートして貰うことで解決できました。「NEUTRANS」の標準機能である3Dペン機能だけでも色々作れましたよ。ほら、これとか、こんな感じでね。残念ながら道具の使い方に関して、細かなとところまでは再現できないので、「使っている」イメージだけですけど。


3Dペンで作った道具を手に持って手順を実演する様子

本当だ!よく見たら3Dペンで作成されたアイテムがいくつかありますね。これらたくさんのアイテムを扱うのは大変ではなかったですか?

清住氏:むしろリアルのアイテムでやるよりも楽だったかもしれないです。NEUTRANSの空間を保存する機能を活用すれば、準備や片付けも必要ないですしね。色々なアイテムを動かしたり、組み合わせるシーンもあるので、むしろやりやすかったです。

講習会について、具体的にはどのようなコンテンツが用意されていたのでしょうか。

清住氏:大きく講義と実習の2パートに分かれます。講義パートではPDF資料を使って「教えるということ」について我々講師から話をし、その後は「良い指導者とは何か」について受講生も交えてグループディスカッションを行いました。

実習パートには5つのコンテンツがあります。「1対1で物の説明を行う」「スキル(電気ショックのかけ方など)を指導する」「必要なものを準備し、教える場をつくる」「シナリオを流してみて手順を指導する」「スキルをチェックし、フィードバックをする」この5つの上手なやり方を学んでいくイメージです。この時の様子を短い動画にまとめてみたので、よかったらご覧ください。

すごい! 「NEUTRANS」の強みが非常に活かされていますね!

清住氏:今回はリアルで行っている講習会をVRで代替するのが目標でしたが、その目標は達成されたと思います。むしろ、360°動画の視聴に関してはリアルよりも良かったんじゃないかと感じています。リアルで360°動画を見ようと思うと、視聴タイミングで複数人に対して「VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を被ってください」って指示を出して、「再生しますよ」ってアナウンスして、「では外してください」…って、すごく大変じゃないですか。「NEUTRANS」はあの手間がないんですよ。最初からバーチャル空間にいるので、「じゃあ再生しますよ~」で360°動画を再生できる。再生が終わったら元の3D空間に戻ってきて、「今の動画どうだった?」ってそのままディスカッションに入れる。見返したいと思ったら簡単に動画を再生できるので、その点は参加した受講生からも好評でした。

VRの強みを存分に活かしたトレーニングの実現に向けて

他にも「NEUTRANS」について感じるメリットがあればお伺いしたいです。

清住氏:総合してよく出来ているサービスだなと感じます。機能数も豊富ですし、その操作もスムーズです。

あと、アバターによるコミュニケーションはリアルに比べて、はるかにコミュニケーションのハードルが下がりますね!今回お話した講習会は、普段からコミュニケーションを取っているメンバーだったので気づかなかったのですが、別の機会に初対面の学生と「NEUTRANS」上で勉強会をした際、アイスブレイクなく勉強会を始められたんです。普段だったら「教授、よろしくお願いします」って畏まるような学生たちが、非常にリラックスした様子で、和気あいあいとした雰囲気になっていたのはとても良かったですね。

講習会以外でも素敵な体験が生まれているようで何よりです!最後に、今後のVR活用についてのお話を聞かせてください。

清住氏:今回の蘇生訓練指導者講習会に関しては、受講者から「楽しかった」「またやりたい」といった好意的な意見が多く出ていますし、主催する側としても可能性を非常に感じました。このようなやり方が一つの選択肢となるよう、今後も検討を重ねたいと思います。

広くVR技術についてお話をしていくと、やはり自衛隊の人間としてはトレーニングや現場にこの技術を活かしていきたいですね。災害医療対応支援や医療教育の実証実験について取り組みを進めるほか、艦上や航空機の中をバーチャル空間に再現してのトレーニング活用もやってみたいです。訓練をするのに、実際の艦艇や航空機を使って、全国から人を集めて、民間の方も巻き込んで…というのはとても大変ですから。VR技術を活用して、多人数複数チームのチームビルディングを現地に行かずに行えるようにできたらいいなと考えています。

素敵ですね!VR技術を活用してより効果的なトレーニングを実現していきましょう。清住教授、ありがとうございました!


トップのアバター写真を現実空間で再現していただいた写真

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